| Q.26 |
慶應義塾大学の大津由紀雄先生のところには中学生からいろいろな質問が寄せられます。次の質問もそのうちの1つだそうです。 |
He lives in a small town lying at the foot of Mt. Fuji.
(彼は富士山のふもとにある小さな町に住んでいます。)
という文があったのですが,「ある」なので,be動詞が使えるのかなと思ったのですが," being "などではダメなんですか? |
今回はこのおもしろい質問を取り上げます。 |
| A.26 |
中学生Aさんは次のように3つのステップを踏んで考えたのでしょう。 |
ステップ1: 次の(1)と(2)はOKだ。
| (1) |
He lives in a small town which lies at the foot of Mt. Fuji. |
| (2) |
He lives in a small town which is at the foot of Mt. Fuji. |
ステップ2: (1)に対応する次の(3)がOKなのだから(2)に対応する次の(4)もOKのはずだ。
| (3) |
He lives in a small town lying at the foot of Mt. Fuji. |
| (4) |
×He lives in a small town being at the foot of Mt. Fuji. |
ステップ3: ところが,意外なことに上の(4)は非文法的だという。(4)ではなく,次の(5)が正しいという。
| (5) |
He lives in a small town at the foot of Mt. Fuji. |
(5)がOKなのはわかるが,どうして(4)がアウトなのか?
この推論は論理的には非の打ち所がありません。以下,どうして(4)が非文法的なのか考えて見ましょう。
まず,この現象の説明に登場する2人の主役,whiz 削除( whiz
deletion )と -ing 化を紹介しましょう。最初は whiz
削除です。whiz 削除は,次の(6)-(9)に見られる関係節の中の関係代名詞とその直後のbe動詞を削除し,下の(10)-(13)の構造を作り出す操作です。
| (6) |
a small town that is at the foot of
Mt. Fuji |
| (7) |
the girl who is afraid of swimming
in the lake |
| (8) |
the boy who is watching a baseball
game on TV |
| (9) |
a book which is liked by everybody
in the class |
| (10) |
a small town at the foot of Mt. Fuji |
| (11) |
the girl afraid of swimming in the lake |
| (12) |
the boy watching a baseball game on TV |
| (13) |
a book liked by everybody in his class |
whiz 削除という名前はどこから出てきたのでしょうか?ご想像通りです。(7)や(8)の
who is を削除するのですが、who
is を自然な速さで発音すると whiz に聞こえますよね。
さて、もう1人の主役は ing 化です。ing 化は,直後にbe動詞以外の定形動詞(現在形と過去形の動詞のことです)を伴う関係代名詞を削除し,定形動詞を ing 形に変える操作です。ing 化は次の(14)の関係節構造に適用されると,(15)の構造を作り出します。
| (14) |
a small town which lies at the foot of Mt.
Fuji. |
| (15) |
a small town lying at the foot of Mt. Fuji. |
2人の主役が出そろいましたので,次にこの2人の主役の役割分担について考えてみましょう。上の(1)と(2)に ing 化が働いたらどうなるでしょうか。(1)は(3)に,(2)は(4)に変わります。しかし,(4)は非文法的なので,(2)が(4)に変わることは阻止しなければなりません。
そこで,whiz 削除と ing 化の適用方式について,次の(16)のように考えてみましょう。
| (16) |
まず当該構造が whiz 削除が適用できる構造「関係代名詞+be動詞」であるかどうかをチェックする。適用できる構造であれば適用してもよいが、適用しなければならないというわけではない。しかし,適用できる構造であるにもかかわらず適用しないで,その後になって,ing 化を適用することはできない。whiz 削除が適用できる構造でなければ,ing 化を自由に適用してよい。 |
上であげた(1)は,関係代名詞 which の直後に定形の一般動詞 lies が来ていますので,whiz 削除の適用を受ける構造ではありません。その場合には,whiz 削除の代わりに ing 化を適用することができます。適用したら(1)は(3)に変わります。
それに対して,上の(2)はどうでしょうか。関係代名詞 which とbe動詞の is がじかに隣接していますので,whiz 削除の適用を受ける構造です。もちろん適用しなくてもいいのですが,仮に適用すると上の(5)ができます。(5)は定形動詞を含んでいませんので ing 化を適用することはできません。これが(4)が出てこない理由です。
(16)の内容を理解していただけましたか?一旦(16)の内容を理解していただけたら、実際に覚えるのは(16)の最後の文だけで十分です。(16)の最後の文を次の(17)に書き出しましたが、これで(16)の内容を読み取ってください。
| (17) |
whiz 削除が適用できる構造でなければ、ing
化を自由に適用してよい。 |
ところで、(4)がアウトであることを,「名詞の後置修飾語として being を使うことはできない」という一般化を立てて説明することはできません。この一般化そのものが成立しないからです。
そのことを証明するために,下に2つのタイプの文をあげます。
まず,第1のタイプの例として次の(18)を見てください。
| (18) |
The kid is being noisy over there. |
(18)は間違いではありません。文法的には何の問題もありません。(18)は,その子どもが今,一時的に,騒いでいるという意味を表します。つまり,次の(19)と同義です。
| (19) |
The kid is making a lot of noise over there. |
(18)と(19)を日本語にすると,「その子どもがあそこで騒いでいる」になります (Close
1975, p.76; Murphy 1994, p.8) 。それに対して,次の(20)は「その子どもは根が騒がしい性格だ」という意味です。
(20)は,その子どもが騒いでいないときにも使うことができます。
第2のタイプの文は次の(21)に見られるような受け身の進行形の文です。
| (21) |
The man is being tortured by the
enemy soldiers. |
(21)の発話者は,その男が敵の兵士に拷問されているのを目撃して,そのことをどこかにケータイで連絡しているのかもしれません。
上の(18)と(21)を関係節を含む名詞句に変えると次の(22)と(23)ができます。
| (22) |
the kid who is being noisy over there |
| (23) |
the man who is being tortured by the enemy soldiers |
(22)と(23)は whiz 削除の適用を受ける構造をしています。適用を受けて who is が削除されると,それぞれ,次の(24)と(25)になります。
| (24) |
the kid being noisy over there (is her son) |
| (25) |
(I know) the man being tortured by the enemy soldiers |
(24)と(25) には名詞の後置修飾語の being がちゃんと残っていますが,文法的です。
今回取り上げた中学生の疑問は論理的には当然至極の疑問です。高校生や大学生が,ことばに対する驚きの気持ちを忘れずに,ことばをつぶさに観察すると,このようなおもしろい疑問がいっぱい出てくるでしょう。また、そのような疑問を温めて続けているうちに、ひょっとしたらおもしろい発見ができるかもしれません。
参考文献
Close, R. A. (1975) A Reference Grammar for Students of English, Longman, Harlow.
Murphy, Raymond (1994) English Grammar in Use, 2nd ed., Cambridge University Press, Cambridge.
大阪大学教授 岡田伸夫
2005年1月26日 |