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(前号から続く)
大修館書店発行の『英語変形文法の要点』はLangendoen, D. Terence (1970) Essentials
of English Grammarの訳書です。訳者は今井邦彦先生です。同書のpp.131-132に次のように書かれています。
| (17) |
このことを理解するには第3章の106―ここに105として再録する―の場合を考えてみるとよい。 |
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105. |
Princess Grace is Prince
Rainier's wife. |
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明らかに105の前提にはレニエ公の夫人は唯1人であるということが含まれている。
従って105は106の文体的異型であって107のそれではない。(訳注28) |
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106. |
Princess Grace is the wife of Prince
Rainier. |
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107. |
Princess Grace is a wife of Prince Rainier. |
(17)は,原著者ランゲンドン(Langendoen)の主張ですが,本稿ですでに述べてきたように,正しくありません。おもしろいことに,今井先生は訳注28(pp.226-227)で次の(18)のように書かれ,ランゲンドンの主張が誤りであると述べておられます。
| (18) |
これは正しいとは考えられない。すなわち105は107の意味も持ちうる。つまり,[中略]一般に所有格表現は定冠詞のみならず不定冠詞にとって代る場合もあると考えられるのである。このことは105-107の場合よりも次の例において一層明らかであろう。 |
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That's my brother standing over there. |
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Kate is George's sister. |
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どちらの場合も,私の兄弟ないしGeorgeの姉妹が1人きりという前提はない。 |
Higgins (1979)は,もともとHigginsが1973年にMITに提出した博士論文ですが,その中で(p.267)次のように述べています。
| (19) |
However, the phrase can also be used Predicationally,
as in the dialogue: |
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| (156) |
a. |
How is Mary related to you? |
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b. |
She's my sister. |
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Here, in Predicational use [中略], there is no suggestion that I have only
one sister.
(I owe this point about number to Jespersen (1924, 153).) |
(19)の引用文中の(156)のShe's
my sister.に私に妹が1人しかいないという含意はないと明言しています。ヒギンズ(Higgins)が(19)でin
Predicational use (叙述的用法において)と限定していることの意味については,もう少し先でHuddleston
and Pullum(2002)の記述を取り上げるところで触れます。
また,Oehrle (1974, p.515, note 7)は,次の(20)にはバッハの息子が1人しかいないという含意はないと述べています。
| (20) |
Wilhelm was Bach's son. |
『百科事典マイペディア』にはヨハン・セバスチャン・バッハの「4人の息子が音楽家として著名」とあります。
The Cambridge Grammar of the English Languageは,ロドニー・ハドルストン(Rodney
Huddleston)とジェフリー・プラム(Geoffrey K. Pullum)が2002年に出版した1842ページもある英語の記述文法書です。2004年1月にはアメリカ言語学会(the
Linguistic Society of America)からLeonard Bloomfield Book Awardを授与された名著なのですが,同書
(pp.266-267)は,be動詞に続く補語の用法を二つに区別しています。次の(21)の(a)と(b)を見てください。
| (21) |
a. |
His daughter is very bright/a
highly intelligent woman. [属性付与] |
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b. |
The chief culprit was Kim.[同定] |
(21)a.の補語(very
bright/a highly intelligent woman)は,主語(his
daughter)がどのような属性(大変頭がいい/大変知性のある女性である)をもっているかを述べています。この用法を属性付与(ascriptive)と呼ぶことにします。それに対して,(21)b.の補語(Kim)は,主被告人がだれであるかを同定(specify/identify)する働き(The
x such that x was the chief culprit was: Kim)をしています。この用法を同定(specifying)と呼ぶことにします。同書は次の(22)をあげ,補語のhis
sisterは属性付与と同定のどちらの用法で解釈することもできると述べています。
| (22) |
The victim was his sister.[属性付与/同定] |
同定の場合には,被害者と彼の姉あるいは妹が同一人物(the victim=his sister)ということになりますから,his
sisterは1人しかいないことになります。それに対して,属性付与の場合には,被害者は彼に対して姉あるいは妹の関係である(she
was related to him as sister)ということを述べているだけですので,彼に数名の姉あるいは妹がいてもかまわないということになります。
同定の場合には,属性付与の場合と異なり,主語と補語を入れ替えることができます(Jespersen
1965, p.153; Quirk et al. 1985, p. 742; Huddleston and Pullum 2002, p.54)。次の(23)を上の(21)b.と比べてください。
| (23) |
Kim was the chief culprit. |
Huddleston and Pullum (2002, pp.266-267)は,さらに,次の(24)をあげ,(24)のhis
sisterを属性付与で取るなら,彼に姉あるいは妹が1人もいなくてもかまわないが,同定で取るのなら,彼に姉あるいは妹が1人いることが強く含意されると明記しています。
| (24) |
The victim was not his sister. |
上の(19)にHiggins
(1989, p.267)の説を引用しましたが,HigginsのいうPredicationalは,Huddleston
and Pullum (2002, p.266)のいう属性付与(ascriptive)と同じものです。
「He's my friend.と言っても彼が私の唯一の友達というわけではない」ということは十分明らかになったと思いますが,「彼が私の唯一の友達だ」と言いたいときにはどう言えばいいのでしょうか。みなさんにはできるだけたくさんの友達をつくってほしいと思いますが,どうしてもそう言いたければ,onlyを使ってHe's
my only friend.と言えばいいのです。
最後に,the son/daughter/... of ... のパターンにも一言触れておきます。Oehrle
(1974, p.509)は,次の(25)の文に関して,「普通,名詞に定冠詞theがつくと『それしかない』という唯一性の含意が出てくるが,「the 名詞of 〜」がbe動詞の右側に(補語として--筆者)出てくるときにはその含意はない」と述べています。
| (25) |
Wilhelm Friedemann Bach was the son
of the well-known composer of cantatas. |
つまり,(25)には,(20)同様,Wilhelm Friedemann Bach(ヨハン・セバスチャン・バッハの長男)がthe
well-known composer of cantatas (ヨハン・セバスチャン・バッハ)の唯一の息子という含意はないということです。
一色マサ子先生が訳されたクリストファセン(Christophersen)の『冠詞』のp.101にも「どのtailorも1人以上の子供をもつことが多いが,theをつけてHe
was the son of a tailor.とする」という趣旨のことが書かれています。
また,『英語語法大事典』(p.998)は,次の(26)の例文をあげ,「この伝記の場合,彼女はひとり娘ではない」と注記しています。
| (26) |
She was the daughter of Nicholas
and Margaret Stilwell. (彼女はニコラス・スチルウェルとマーガレット・スチルウェルとの間の娘であった)--Clark: Thomas
Alva Edison |
引用文献
Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum (2002) The
Cambridge Grammar
of the English Language, Cambridge University
Press, Cambridge.
今井邦彦 (1972)『英語変形文法の要点』大修館書店. [Langendoen, D. Terence
(1970) Essentials
of English Grammar, Holt, Rinehart and Winston]
石橋幸太郎他(編) (1966)『英語語法大事典』大修館書店.
一色マサ子 (1958)『冠詞』英語学ライブラリー(29), 研究社出版. [Christophersen,
Paul
(1939)The Articles, a Study of their Theory and Use in English,
Einar
Munksgaard,
Copenhagen]
Jespersen, Otto (1965) The Philosophy of Grammar, W.W. Norton & Company,
New
York.
Murphy, Raymond (1994) English Grammar in Use, 2nd ed., Cambridge University
Press,
Cambridge.
Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik (1985)
A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman, London.
Rando, Emily and Donna Jo Napoli (1978) "Definites in There-Sentences,"
Language 54.300-313.
Oehrle, Richard T. (1974) "Some Remarks on the Painting of Rembrandt,"
Papers
from the Tenth Regional Meeting of the Chicago Linguistic Society,
504-516.
大阪大学教授 岡田伸夫
2006年2月26日 |