▼現在,日本で使われている英文法参考書や英和辞典には,たいてい,「"no more
than 〜"は少ないことを強調して『たったの〜,〜しか(only 〜)』という意味を表わし,"no less than
〜"は多いことを強調して『〜(ほど)も (as many / much as 〜)』という意味を表わす」と書かれています。
"no more than 〜"と "no less than 〜"にそのような意味があるということは事実です。たとえば,次の
(1)-(4) の例文を見てください。
(1) Sarin
is such a powerful nerve gas that a concentration of no
more than one part per million in the atmosphere
will kill every living thing within range. (サリンはとても強力な神経ガスなので,空気中に100万分の1でも濃縮して存在していれば,その範囲の中のあらゆる生き物を殺してしまう。)
(2) Donations
of any size will be gratefully accepted, even if they are no
more than a few yen. (どのような金額でも,たとえほんの2〜3円でも寄付はありがたくいちょうだいします。)
(3) They say the
new gymnasium cost no less than 3.5 billion yen.
(新しい体育館は35億円もしたそうだ。)
(4) There is a
beer-hall in Tokyo which is so big that it can seat no less
than 2,500 customers at once. (東京にはとても大きいので一度に2,500人も収容できるビアホールがある。)
(1), (2) の "no more than 〜"は数量が少ないことを,(3),
(4) の "no less than 〜"は数量が多いことを強調しています。
▼書き言葉では数量が少ないことを "minuscule" を使って表すことがあります。たとえば上の
(1) は "minuscule" を使って次の
(5) のように言うこともできます。
(5) Sarin is such
a powerful nerve gas that a concentration of a minuscule
one part per million in the atmosphere will kill every living thing within range.
また,会話では数量が多いことを "whopping" を使って表すことがあります。たとえば上の
(3) は "whopping" を使って次の (6)
のように言うこともできます。
(6) They say the
new gymnasium cost a whopping 3.5 billion yen.
▼でも,「"no more than 〜"=たったの〜,〜しか」「"no
less than 〜"=〜(ほど)も」という公式には一つ問題があります。"no more than 〜" と "no
less than 〜" にはそれぞれ "not more than 〜" と "not less
than 〜 "の意味もあるのです。次の (7)を見てください。
(7) If the tickets
are no more than \5,000, I'll buy one.
(7) は「チケットがたったの5,000円なら一枚買おう」という意味でとることもできなくはないでしょうが,「チケットが5,000円以内なら一枚買おう」という意味でとるのが普通でしょう。後者の意味は次の
(8) で表すことができます。
(8) If the tickets
are at the most \5,000, I'll buy one.
つまり,(7) は次の (9)
と同じ意味でとることができるのです。
(9) If the tickets
are not more than \5,000, I'll buy one.
タイトルにあげた次の (10) を見てください。
(10) In order
to pass this course you must read no less than 50
pages a day.
(10) は「このコースに通るためには毎日50ページも読まなければならない」という意味でとることもできますが,たいていの人は「このコースに通るためには毎日少なくとも50ページは読まなければならない」という意味でとるでしょう。
後者の意味は次の (11) で表すことができます。
(11) In order
to pass this course you must read at the least 50
pages a day.
つまり,(10) は次の
(12) と同じ意味でとることができるのです。
(12) In order
to pass this course you must read not less than 50
pages a day.
▼"not more / less than 〜" の意味で使われている "no more / less
than 〜" の例を追加しましょう。
(13) That restaurant
can accommodate no(t) more than twelve customers
at a time. (あのレストランは一度にせいぜい12人しか収容できない。)
(14) Wherever
I decide to move to must be someplace no(t) more than
two hours by train from downtown Tokyo. (どこへ引っ越すことにしても東京のダウンタウンから電車で2時間以内で行けるところでなければだめだ。)
(15) Applicants
must be no(t) less than 21 years of age. (応募者は少なくとも21歳以上でなければならない。)
(16) The tip you
leave in an American restaurant should be no(t) less than
15%. (アメリカのレストランでおくチップは最低15%にすべきです。)
▼同じような公式的教え方の不備は "as many / much as 〜" の扱いにも見られます。学習文法では「"as
many / much as 〜" は数量の多いことを強調して『〜も』という意味を表す」と教えます。確かにそのような使い方があることは事実です。たとえば次の
(17) のやりとりを見てください。
(17)
A: Can you believe that he earned as
much as \800,000,000 last year?
B: If his income is as much as
all that, he have to pay a lot of tax on it.
A と B の "as much as" は8億円が大きな金額であるということを強調しています。
しかし,次の (18) の "as many as"
や (19) の "as much as" にはそのような意味はありません。
(18) That restaurant
can accommodate as many as twelve customers at a
time. (あのレストランは一度に12人ほど収容することができる。)
(19) It is possible
to win as much as $1,000 in the lottery. (その宝くじでは最大
$1,000 ドルがあたります。)
(18) は一度に12人ほど収容できると言っているだけで,12人が特に多人数だと言っているわけではありません。また,(19)
はその宝くじであてることができる最大の額が $1,000だと言っているだけで,$1,000が特に大きな額であると言っているわけではありません。
▼現在の英語教育の中では,ある形式が複数の意味をもっているときに,そのうちの一つの意味だけを取り出して公式的に教え,ほかの重要な意味を取り上げないことがあります。今日の
"no more / less than 〜","as many / much as 〜" もそのような例の一つです。そのような教え方が長期間にわたって続くと,当該の形式に公式で教えられている以外の意味があるということ自体に気がつかない先生がつくられてしまいます。これらの形式に意味が複数あることに十分留意したいと思います。
生の英語に触れていく過程で "no more / less than 〜" や"as many / much as 〜"
に出会うことはいくらでもあるでしょうが,それらの表現が出てきたら「"no more than 〜=たったの〜,〜しか"」「"no
less than 〜=〜(ほど)も"」という狭い公式に縛られないで,当該の文脈の中ではどちらの意味が意図されているか考えてみてください。
今日の話で使った英語は Ed Quackenbush 先生からいただいたものです。Quackenbush 先生にお礼を申し上げます。
英語の教え方研究室より 京都教育大学教授 岡田伸夫
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