前回は,文型というコンセプトの目的や意義,5文型の定義,「S+V+A」と「S+V+O+A」という2つの新しい文型の設定などについて検討しました。今回も引き続き,文型について考えてみましょう。
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The joggers ran the pavement thin. の文型分析上の問題点
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まず,(10) の文が何文型か考えてみましょう。
(10) The
joggers ran the pavement thin.
確かに最近はジョッギングブームで走っている人をよく見かけます。(10) は「ジョガーが走って舗装道路が薄くなってしまった」という意味です。もちろん,舗装道路が磨り減ったというのは誇張法(hyperbole)であり,実際に舗装道路が磨り減ったと言っているわけではありません。the
pavement's being thin はthe joggers' running の結果を表しています。その意味では
(10) を結果構文と呼んでもいいでしょう。文末の thin は the
pavement の補語ですから,(10) の文型は一見したところ,「S+V+O+C」と考えてもよさそうです。でも,1つ問題があります。それは
the pavement が本当に動詞 run の目的語かという点です。次の (57)
を見てください。
(57) *The joggers ran the pavement.
(57) は非文法的です。動詞 run は自動詞なので目的語をとることができません。ですから,(10)
の the pavement を単純に目的語と呼んでいいのかどうか疑問なのです。
(10) の類例をあげてもう少し考えてみましょう。次の
(58) を見てください。
(58) The dog barked us awake.
動詞 bark も自動詞ですから次の (59)
はアウトです。
(59) *The dog barked us.
(58) は「犬がほえたので私たちは目が覚めた」という意味ですが,動詞
bark の直後の人称代名詞の語形が目的格の us になっているという事実は,us が目的語であることを示唆しています。
目的語と考えられるもう1つの証拠は,次の (60)a
の the baby を主語にした受け身文ができるということです。
(60)
| a.
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The neighbor's noisy dog barked
the baby awake every morning. |
| b. |
The baby was barked awake every
morning by the neighbor's noisy dog. |
普通,受け身文の主語になれるのは動詞の目的語ですから,(60)b
が OK だということは,(60)a の the baby が目的語だということを示唆しています。これからは,(10)
の the pavement,(58) の us,(60)a
の the baby などを「目的語もどき」(fake object)と呼ぶことにしましょう。
目的語もどきの例をもう1つ見ておきましょう。次の (61) を見てください。
(61) The audience
laughed the poor guy off the stage.
(61) からは「聴衆が大笑いしたので,講師は尻尾を巻いてステージから降りた」というような状況が想像できます。動詞
laugh は自動詞なので次の (62) は許されません。
(62) *They laughed the poor guy.
(61) の the poor guy も目的語もどきと考えていいでしょう。ただし,(61)
の off the stage は the poor guy の補語ではありません。off the path は前置詞句であり, the poor guy
が移動する経路(path)を表しています。したがって,(61) の文型は「S+V+O+A」と考えられます。
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The teacher is fond of chocolate. のような形容詞を含む文の文型分析上の問題点
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John is tall. は典型的な「S+V+C」で,何も問題はありません。しかし,形容詞にはある種の句を必ず従えるものがあります。次の
(63) と (64) を見てください。
(63) The teacher
is fond of chocolate.
(64) The man is
devoid of compassion.
(63) の of chocolate と (64)
の of compassion は文構成上不可欠の要素で,これらがないと (63) と
(64) は非文法的です。
(63) の fond of chocolate と (64)
の devoid of compassionは,構造上はそれぞれ形容詞 fond と devoid を主要部(head)とする形容詞句で,機能上はそれぞれ
The teacher と The man の補語です。したがって,従来の考え方にそのまま従うと,(63)
と (64) の文型は「S+V+C」ということになります。問題は,文構成上不可欠な
of chocolate と of compassion をどのように扱うかということです。
まず,(63) の意味を考えてみましょう。(63)
は次の (65) と同義ですから,(65)
の chocolate が動詞 like の目的語なら,(63)
の chocolate は形容詞 fond の目的語ではないかという疑問が湧いてきます。
(65) The teacher likes chocolate.
さらに,次の (66)-(69) の of snakes,in math,that
he will win,of his facts は,形容詞 afraid,interested,hopeful,sure の目的語と考えられます。
(66) The kids are
afraid of snakes.
(67) She is interested in math.
(68) The girl is hopeful that she'll pass
the exam.
(69) He is sure of his facts.
(66)-(69) のof snakes,in math,that
he will win,of his facts は,適切な文脈の中では省略されることもあるでしょうが,話し相手から afraid of what,interested
in what,hopeful that what,sure of what のように質問されるでしょう。
(66) は次の
(70)とほぼ同じ意味ですが,(70) の
snakes が動詞 fear の目的語なら,(66) の snakes
は形容詞 afraid の目的語と考えてもいいのではないでしょうか。
(70) The kids fear
snakes.
現行の5文型による分析は動詞の項構造に基づいています。形容詞の項構造は最初から蚊帳の外でしたので,(63),(64),(66)-(69)
に見られるような目的語を必ず従える形容詞を含む文はもともと文型処理できないのです。
次に,第5文型の「S+V+O+C」について考えてみましょう。前回あげた (51)
をもう一度見てみましょう。
(51) An MIT education
made me a linguist.
(51) の人称代名詞 me は,形が目的格ですし,次の
(71) に見られるように,me を主語にした受け身文がつくれますので目的語と考えていいでしょう。
(71) I was made a linguist by an MIT education.
しかし,その一方で,me と a linguist の間には主語と補語の関係が成立しています。そのことは
(51) の目的語を複数の them に変えると,a linguist が linguists に変わるということからもわかります。
(51') An MIT education
made them linguists.
動詞 make は使役動詞で,「〜を〜にする」という意味をもっていると言われますが,make のもともとの意味は「〜をつくる」です。次の
(72) で彼がつくったのは家という「もの」ですが,(73)
で彼がつくったのは「彼女が幸せである」という状況です。
(72) He made a
house.
(73) He made her happy.
また,(51) で an MIT education がつくったのは「私が言語学者である」という状況です。さらに,次の
(74) と (75)
で彼がつくったのはそれぞれ「彼女が待つこと」と「彼自身が理解されること」です。
(74) He made her wait.
(75) He made himself understood in French.
このように考えると,(72) が「S+V+O」なら,(51)
や (73)-(75) も「S+V+O」ではないかという疑問が出てきます。
同様の例でもう少しこの点を詰めてみましょう。次の (76) は伝統的には「S+V+O+C」と分析されます。
(76) I believe the report false.
(76) の the report を目的語と考えるのですが,(76)
を典型的な「S+V+O」である次の (77)
と比べてみてください。
(77) I believe
the report.
(77) では私はその報告を信じていますが,(76)
では私はその報告を信じていません。(76) で私が信じているのは「その報告が間違っている」ということです。同じ
O でも,ずいぶん違いますね。
(76) は意味的には次の (78)
と同義です。
(78) I
believe that the report is false.
(78) は that the report is false を目的語とする「S+V+O」の文型ですが,それなら
(76) も the report false を目的語とする「S+V+O」になるのではないでしょうか。(76)
が「S+V+O」なら,(78) 同様,複文ということになります。複文なら5文型処理をしなくてよいということになります。
(76) の the report false と (78)
の that the report is false には次の (79) にあげる2つの違いがあります。
(79)
@ the report false は現在あるいは過去の時制を標示する動詞形をもっていないが,that the report is false は現在の時制を標示する動詞形
is (=be+Present)をもっている。
A the report false は従属節としてしか現れないが,that the report is false は単独で主節として現れる(ただしその場合には補文標識の
that は削除される)。
ただし,(79) の @ と A は独立した現象ではなく,A は
@ の帰結でしょう。
でも,(79) の @ と A の違いを除けば,the report
false も that the report is false も主部と述部からなる文であると考えられます。(76)
の the report false は時制を標示する動詞形を欠くので小節(small clause)と呼ばれることがあります。
ここでは,第5文型「S+V+O+C」を認めるべきか認めるべきでないかという問題に決着をつけることは控えますが,There's more to the "S+V+O+C"
pattern than meets the eye. ということを実感してもらえればそれで十分です。
京都教育大学 岡田伸夫 「英語の教え方研究会」より |